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時代を読む:嶌信彦の眼 排出権取引はCO2削減の切り札か その仕組みと実情は?

2008年01月21日 23:00

 今やアメリカのアル・ゴア前副大統領は“環境問題の王様”的存在である。何せ地球環境に警鐘を鳴らす最強の“伝道師”として2007年のノーベル平和賞を受賞しているからだ。そのゴア氏が今年3月、ニューヨーク大学の講演で「世界規模で排出権取引を認可することが地球温暖化を防ぐ解決策だ」と語っている。

 そんな影響もあってか、最近の新聞、テレビでは、やたらと「排出権取引」という用語が飛びかっている。だが、一方で専門家のかなり多くの人達が“排出権取引のシステムは抜け道だらけ”と指摘する。果たして流行の排出権取引は、本当に地球温暖化の防止に役立つのか。新日本製鉄の三村明夫社長は12月12日の記者会見で「排出権取引がどうして地球全体のCO2削減に役立つのか、誰も言ってくれない」と嘆いた。一体、排出権取引の仕組みはどうなっているのか。この取引のあり方に賛成、反対が激しく対立するのはなぜなのか。今回は“排出権取引”とは何か---について検証してみよう。



 2007年のノーベル平和賞はゴア前副大統領と国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」に与えられた。IPCCは世界の科学者の最新の研究成果をもとに地球の温暖化問題について検証、研究している国連組織で、1990年以降ほぼ5年毎に評価報告書を発表してきた。そして今年の11月に決定打となる「統合報告書」を発表した。それは「地球温暖化は人間の活動を原因とする温室効果ガスの増加でもたらされた」と結論づけ、世界の平均気温は21世紀末には20世紀末に比べ1.8度から4度、海面も最大59センチ上昇すると予測した。IPCCが地球温暖化の原因は「人間活動にある」と断じたことで一挙にCO2削減に対する人類の責任論が高まった。ゴア氏が伝道師だとすると、IPCCは科学的根拠、理論づけをした“お告げ博士”といえよう。

 1997年の京都議定書で温室効果ガス(CO2)の削減目標を決めたものの、もう一つ盛上がりに欠けていた環境運動は、これらの報道によって急速に弾みがついた。そして京都議定書で決めた2008~2012年の削減目標(1990年比で日本は6%減、アメリカ7%減、EU8%減)の達成とポスト京都議定書(2013年以降)の目標が焦点となってきたわけである。

 地球環境には、企業や家庭、人間の直接的活動から出るCO2を減らすことが最も望ましい。そうでない限り地球全体からCO2の総量が減らないからだ。しかし経済が成長する限り、経済活動の活発化に伴いCO2の量も増量する。したがって増量分を含めたCO2を現在より削減するには技術開発や効率的な省エネの活動、人間活動そのもののエコライフの徹底---などを行なわない限り、“成長しながらCO2を減らす”ことは難しいことになる。しかし現実には「成長を維持しつつCO2削減をはかる」ことは不可能に近い。そこで、別の方法でCO2削減の手法を考え出した。それが「排出権取引」という新しいやり方だったのである。



◇CO2はカネになる

 排出権とは国や企業などに対しCO2などの温室効果ガスを一定量排出しても良いという割当てた枠(権利)のことをいう。そしてその割り当てた枠=権利の範囲内以下に排出量を抑えた企業などは余った分の権利=枠を売ることができ、逆に割り当てられた範囲以上にガスを排出した企業は、市場又は余った企業からその余った分の枠=権利を買うことでCO2の余剰排出分を相殺することになる。排出権取引とはその権利=枠の売買取引のことで全体としてCO2の排出総量を一定の枠内に収めようという考え方だ。このため、株式市場のように「排出権取引市場」の存在が必要となりEUや北米、日本などで市場を創設している。こうした市場の機能が働くと、自社の削減努力だけでは割当てられたCO2削減目標に達成できない場合、市場から余った枠=権利を買ってきて自社の未達分を補うことができるというわけだ。これを国単位でも売買できる仕組みにすれば、最後の手段として未達分を余った国から権利=枠を買いとれば、国の削減目標を達成できることになる。要するに排出権取引市場とは、CO2の排出権枠を市場に出し、そこで余剰国・企業と削減未達成国・企業が、排出権を一つの商品と考えてカネで取引きし、地球全体のCO2削減の総量のツジツマを合わせようという考え方、仕組みといえる。

 その場合、買い手の多くは、CO2の排出量が多く削減目標を達成し難い先進国とその企業になりがちで、逆に売り手は削減目標をもたないか、持っていても小さくて排出枠・権利を余らせることのできる新興国とその企業になるケースが多い。京都議定書では1990年のCO2排出量を基準年としているから、当時工業化の進んでいなかったロシア、東欧諸国、中国、途上国などは余剰排出枠を沢山持ち、この排出権取引で資金獲得できるメリットがあるし、広大な森林などをもってCO2を吸収できる国々も余剰枠を持ちやすく有利となる。逆に日本のように高度成長を遂げ工業化が進んでいるうえ、省エネ・環境技術でかなり努力してきた国は、1990年を基準年としそこからさらに大きな削減目標の枠をかぶせられると、さらに高度な省エネ、環境技術がない限り苦しい立場に追い込まれる。

 いわば1990年までにスリムで筋肉体質になっていた日本はさらに6%削減することが義務付けられたが、途上国や中国などは厳しい削減目標がなく「成長努力をやってよろしい、その成長力でもなおCO2の余剰枠ができたらその分を排出権取引として売ってよい」ということになる。EUの場合は全体で8%の削減目標がかぶせられているが、1990年時点の東欧諸国は削減目標がゆるく、その東欧がEU入りしているおかげでEU全体としては域内で排出権のやり取りをすれば案外容易に目標達成ができる仕かけとなっている。



◇排出権取引の資金で公害工場建設も

 ただ気をつけなければならないことは、京都議定書で定めた排出量削減の取引ルールは第1が「CDM(クリーン開発メカニズム)」と呼び、国連が計画を審査・承認した場合だけに限って議定書の定めた削減量達成の手段に使えるという点だ。つまり国連が認めない内容などだと、いくらそこから排出権を獲得しても京都メカニズムの削減目標にはカウントされないのである。

 たとえばある企業が途上国などでCO2を削減する事業を実施し見返り排出権を取得しようとしても、その実施主体、事業が国連に申請、承認されて議定書に基く排出権であると公式に発行されない限り企業は転売したり、削減目標にカウントできないことになる。最近の国連審査は厳しくなっており、これまでに100件、約5%が却下されている。特にインドや中南米向き事業が却下されやすく日本の電力、商社が計画したCO2削減事業で3~7万トンの排出権獲得を狙ったが却下されたという。第2は先進国の削減事業に協力し成果の一部を自国の削減に換算する共同実施(JI)。第3が議定書での目標以上に削減できた先進国から余剰枠などを買う「排出量取引(ET)」である。

 第1のCDMでの削減分の届出は約25億トンだが、削減目標量が小さく、かつ森林などをもつロシア、東欧だけでその余剰枠は先進国の削減目標量をはるかに上回る50~70億トン。したがってロシア、東欧が全量放出すれば各国はそれを買うだけで義務を達成できることになる。その価格は1トン2000円前後という。しかし、この売買で義務達成といっても地球のCO2の総量が減ったことにはならず、単にカネのやり取りがあっただけという見方もできる。また排出枠に上限のない途上国は、先進国から資金や技術援助で排出削減を行ないその排出権を売って得た資金でフロンガスなどの排出工場を増設しているケースも目立つのである。



◇排出権取引市場は3兆円、投資対象にも

 いま世界では、京都議定書のメカニズムにカウントされない排出権取引が盛んになっている。商品や穀物、石油などと同様に排出権が一つの商品となり、次々と高度な金融工学的な取引へと進展しているのだ。最も拡大しているのはEUでその市場規模はすでに世界の80%を占め、3兆円に達しつつある。

 問題はゴア氏やIPCCが言うように「排出権取引が本当に地球のCO2を削減することに役立っているかどうか」である。単にまた一つの投機的市場が出来、カネのやり取りで架空のCO2削減を論じているなら意味がない。多くの専門家が「結局、途上国は排出権取引によって得た資金で公害をまき散らす工場を増設する企業が多い。この排出権取引によって再生可能エネルギーにまわるべき投資を減らし、結果として全体のCO2削減努力にブレーキをかけているのではないか」と指摘する。この疑問に答えられるような仕組み、抜け道防止策を取らないとこの救世主のように見える排出権取引は行き詰まるだろう。また、こうした金融工学とマーケットメカニズムを結合させた取引きにたけているアングロサクソンの街に陥らないように注意することも必要だ。[TSR情報12月25日号(同日発刊)]

(2008/01/21 毎日)
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